国じゃない国 その2

gowest_lookeast2005-10-05

ブカレストから夜行でモルドバの首都チシナウへ。
朝7:00くらいに国境に着いた。


さて、ここでちょっと面白いものを見た。
旧ソ連圏は、他の欧州とレールの幅が違うのだ。
旧ソ連圏は広軌で、欧州は標準軌。(ちなみに日本は狭軌。新幹線は標準軌
ということで、そのままでは走れないので台車の車輪幅変更が発生する。
編成を客車1両毎にバラバラに切り離して、車両1両ずつ持ち上げて、作業員がえっちらおっちらと台車を切り替え。
なるほど、こうやって切り替えるのか、とちょっとなかなか出来ない体験。
当然ながらこれはポーランド〜ロシア間とかでも行われる、と同じコンパートメントのオデッサ在住ドイツ人が教えてくれた。


まあ、それはいいんだけど、ここで大問題だよ。これが。
モルドバ入国のカスタムチェック。
インスペクターのおっさんが来て、「外貨持ってるか」と言うんで、当然「持ってる」と答えると、記入用紙を渡された。
で、ぶっちゃけ俺が悪いんだけど、ここで面倒くせえな、と思ってテキトーな額を記入して渡したんだな、これが。
それでおっさんは去っていったのだけど、しばらくしてもう1枚あるから駅舎の方まで来い、と言ってきたんで、ハイハイと着いていってさっきと同じ額を記入したんだが、その後に現金見せろ、と来た。


その時点では額が合わないことよりも、現金抜かれる警戒感しかなくて、ぜってー変なマネはさせねー、とか思ってたのだけど、おっさんは本当に一枚一枚カウントし始めた。
うわ、マジかよ。これ間違いなく記入した額より所持金の方が多いんですけど。


当然ながら「申告と合わないじゃないか!」ということになって、「ああ、ゴメン。間違えたんだ」と説明するも、さすがにこの辺の話を身振り手振りで伝えるのは不可能(オッサンは英語力ゼロ。ここまでの会話は身振り手振りのみ。コンパートメント内ではドイツ人が通訳してくれた)なんだが、それは俺のせいではない。
そうすると、何を思ったかこのオッサン、いきなり俺の並べた現金から堂々と20ルーマニアレイを抜き取りやがった。オイオイ。それはぜってー許さねえぞ。と思って取り返す。(この辺が俺のバカな所なのかね)


そうすっと、オッサン、俺と車両に戻ってドイツ人を連れてきて通訳させて、理由を説明しろ、というんで、
「いや、いちいち使うたびにカウントしてないし、ベルトに隠してる分だけしか申告してなくて、別の場所に分けて持ってた分を忘れてて、差額はそのせいだ。」(差額が分割所持分だったのは事実)とかなんとか言い訳。


で、ここであーだこーだという話になったんだけど、途中でドイツ人が英語で、
「このオッサン、なんだかんだ言ってるけどワイロが欲しいだけなんだよ。ちょっと渡せば済むんだから、その方がいいんじゃない」
というんで、まあそりゃ判ってるだよ。
しかし、ドイツ人にこれ以上迷惑をかけるのもアレなんで、結局20レイをこのクソったれインスペクターに渡す。


俺のミスとはいえ、もうブチ切れそうになった。
ドイツ人曰く、「これウクライナ入国の時も気を付けた方がいいよ」と言うんで、今夜は現金カウントチェックだあ。



10:30くらいにチシナウ着。
チシナウには何も大したものはなさそうなのだけど、ガイドブックによると、モルドバ内には世界のいかなる国にも承認されてない国(それって国なのか?)、トランスドニエストル共和国という国があって、しかも未だに共産党支配が続いているのだ。
ガイドブックによると首都ティラスポルは、
"The second-largest city in Moldova if only it weren't the capital of a nonexistent country. Instead, it's no doubt the world's largest open-air museum of Soviet-style communism, only one that's plunged into capitalism for years."
とあって、おいおいなんだかこれって面白そうじゃん!
ということでここに行ってみることにする。


チシナウからバスに揺られて2時間。
途中、検問があってパスポートに入国スタンプは押されなかったのだけど、通行税みたいのを取られて、なんか紙切れにスタンプを貰う。トランスドニエストル出国の時は必ずこの紙を見せるように、とのこと。
モルドバ出国スタンプはない。モルドバとしては領土内というのが正式見解だからだろう)


ティラスポルに着いて、まずはベッドの確保ということで歩きはじめると、英語で話し掛けてくる声。
あーもう、こういうの胡散臭えんだよな。まったく毎度の事で。と思ってたら話し掛けてきたのはどうやらパッカーらしい。(多分、アメリカ人)
彼は俺が行こうとしていたホテルに泊まってるのだけど、曰く、
「この国でホテルに泊まるには、レジストレーションが要るらしいんだけど、このガイドブック(俺のと全く同じヤツ)にはなにも書いてなくて、すごい揉めたんだよ。だからレジストレーションには行った方がいい。ただホテルでは何も手伝ってくれないんで、自分で行かないといけないんだ」
なるほど。それは貴重な情報。今までにもレジストレーションが要る国には行ったことがあったのだけど、基本的に泊まった所で代行してくれてたんだが、ここではそれはないと。


そんで、彼はウクライナからトランスドニエストルに入国(トランスドニエストルはモルドバの端っこにあるのでウクライナとも国境を接している)したのだけど、モルドバとの国境はどうだったか、と聞いてくるので
モルドバ側でパスポートチェックはあったけど出国スタンプはナシ。トランスドニエストルに入るときは検問があって、そこで6レイ払って、スタンプを押した紙切れをくれた。それを出国の時に見せろと言われた」
と答えると、彼はそんな紙切れ貰ってないとのこと。トランスドニエストルのスタンプは一切なし。当然ながらモルドバのスタンプもなし。
さて、ここで彼が一番気にしたのは、トランスドニエストルからモルドバに入る際に、モルドバの入国スタンプが貰えるのか、ということ。
なるほど。そりゃそうだ。もしも貰えないとすると、モルドバから出国する時に揉めるのは必至なワケだ。
インスペクターに「何で入国スタンプがないんだ!俺様に20レイ払え!」と言われる可能性が大。


うーん。どうなるかは俺にも判らんけど、こういうケースってキミが初めてって訳でもないだろうから、モルドバの係員に言えば何とかなるんじゃないかしらん。パスポートチェックはあると思うから。としか答えられんわな。


「そっかあ」という感じで、彼とは「じゃあ後で」と言って別れて、そのホテルへ。
案の定、フロントのおばさんにレジストレーション取ってこいと言われたんで、「ハイハイ」と警察へ。


ここでまた問題だよ。


このポリスがまたウンコみたいな奴等でレジストレーションと言っても何もしてくれずに、「あっちの通りの警察に行け」と言うんで、いやそれはいいんだけどストリート番号くらい教えろよ。こんなん通りの名前だけじゃ、どこにあるか判らんやん。と英語で言ってもヘラヘラせせら笑うように"Money"(カネくれたら連れてってやる)みたいなことを言いやがるんで、これでまたブチ切れというか、半分キレてドアを蹴飛ばして出て自分で探そうとするも、全然見つからず。そもそもあいつら、みんなヒマそうだったじゃねえか!!!!!


もうなんだか、こんなウンコみたいな警官がいる、レジストレーションが必要なウンコみたいな国でカネを落としていくのがバカバカしくなって、モルドバに帰ることにした。
滞在2時間30分。
あー、時間とバス代の無駄だった。


チシナウに戻ったのが20:00。
実はチシナウからティラスポルに向かう前に、チシナウでベッドを確保してティラスポルは日帰りにしようかなあ、とちょっと考えたのだけど結局荷物を担いでティラスポルまで行って、挙げ句荷物を担いで戻ってきて、暗い中を宿探しということで、さらに怒りが加速した。


チシナウの街は、街灯も少なくて、薄暗い中を歩いてると段差につまずいて転びそうになって、
「あー、やべやべ。暗いからな。足元、気をつけないと」
と思った3分後に、豪快につまずいて転倒。足をひねった。怒りの加速度が2乗に。


それでも何とか
「いや、しかしこれはモルドバには罪はないんだ。悪いのはトランスドニエストルだ」
と言い聞かせる。


ホテルを見つけて(これがすごい昔の、要はソ連時代のホテルで良くも悪くもフンイキがあった)、夕食に出る。
なーんか、適当に明るい店に入って指差し作戦で行こうと思ったら、そういう感じの店ではなかったのだけど、可愛い女の子が英語を話せて、おかげでかなり真っ当な −いやアレは美味かったな− ピザをオーダーできた。
ビールも安かった。

最後にちょっとだけ盛り返したな。